第七回研究・活動報告会

第7回研究・活動報告会の報告

生物多様性を守る
- 第7回研究・活動報告会 -

特定公益財団法人緑の地球防衛基金は、昨年11月9日(土)午後2時から、東京・中央区新川の馬事畜産会館2階会議室において「緑の地球を守るために」の第7回研究・活動報告会(テーマ:生物多様性を守る、後援:環境省・株式会社セディナ地球にやさしいカード)を開催しました。第1部の基調講演では、南正人当財団評議員・麻布大学獣医学部講師から、「生物多様性保全と希少種の保護」、続いて第2部は、馬塚丈司サンクチュアリエヌピーオー理事長から「アカウミガメの保護活動-27年間の歩み」、戸川久美トラ・ゾウ保護基金理事長から「ゾウを守る密猟防止活動」について報告がありました。参加者は熱心に聞き入り、盛会に終わりました。


第7回研究・活動報告会で挨拶する大石正光当基金理事長

生物多様性保全と希少種の保護

緑の地球防衛基金評議員   麻布大学獣医学部講師  南  正人

これまでの生物大量破壊は、新たな生物の進化をもたらした。そして生物間の競争は時には片方の生物種の絶滅をもたらしたが、それは自然界では一般に起る現象である。 現代の絶滅は、人間活動に起因するものがほとんどであり、人類と他の生物との競争の結果と考えると絶滅は悪ではない。しかし、単一の生物種が、これほど多くの生物種を絶滅に追いやったことはない。生息地と生息環境の破壊、大気や水の化学的汚染・放射能汚染、環境温度の上昇、大量捕獲(乱獲)、生態系と生物群集の撹乱、生物種の移動(外来種)などによって、他の生物の大量絶滅を引き起こしてきた。人間活動はもはや一生物種の範疇を越えている。これまでになく速い絶滅速度、生態的地位の喪失は、生物種の新たな進化過程への大きな介入となり、生物多様性の基盤である生物進化の過程の破壊につながる可能性が高いと言わざるを得ない。

以前の自然保護は、希少種の保護が中心であった。その後、その希少種の保護には生活している環境全体の保全が必要であることから地域生態系や生物多様性の保全が強調されるに至った。しかしながら、生物多様性保全は希少種の保護を軽視しているわけではない。生物種の絶滅は、種の多様性を減らすだけでなく、つながりの喪失を招き、生態系を崩壊に導く可能性を高める。特に、生態系の上位にいる生物種の絶滅は生態系全体への影響が大きいとされている。また、非常に広い生息域を持つ動物は、それぞれの場所で「他にも生息地がある」という理由で保護されないことも多い。また、海洋のように、誰も責任を持たない地域に生息する生物の保護は非常に重要である。

生物多様性保全は、人類が生存のために多くの生物種や生態系に負担を負わせて いるという現実を踏まえつつ、自分たちの生活のあり方を見直しながら、生物と人 とのよりよい関係を少しでも実現することによって成り立つものである。人間によ るこれ以上の生物の絶滅を防ぐことは、その中でも最も重要なことの一つであり、 また、人間の貧富の地域間格差も生物多様性保全に重要な関係がある。


「生物多様性保全と希少種の保護」について
基調講演を行う南正人麻布大学獣医学部講師

アカウミガメの保護活動-27年の歩み

サンクチャアリエヌピーオー理事長 馬塚丈司

1987年に浜松市の海岸における絶滅危惧種であるアカウミガメの産卵調査を開始した。その後115kmに及ぶ遠州灘海岸全域がほとんど知られていなかったアカウミガメの産卵地であることを発見し、以来27年アカウミガメと産卵地の保護活動を行ってきている。

保護活動は、毎年5月~8月の早朝毎日行う産卵調査と8月~10月のふ化調査を、27年間継続して行っている。人的な加害を防ぐために、産卵地に侵入するオフロード車の走行を禁止させようと自治体への働きかけを行い、また海岸のごみ問題を解決するために提唱した「ウエルカムクリーン作戦」は1990年から今日にまで続き、浜松市の恒例行事となっている。そして、アカウミガメ保護活動は、市民や企業・行政が参加する協働となり、年間1万人もの人々が参加する市民活動となっている。

しかしなお、①浜松市以外でオフロード車の海岸走行による砂浜の荒廃、海浜植物の枯れ死、②蛍光灯や水銀灯から出る人工紫外線の影響により子ガメが海に帰れない、③絶滅が危惧されているといわれながらいまだに続く盗掘、④海岸浸食を促進する波消しブロック等の人工構築物、⑤海岸の浸食・海岸の礫化など海岸の変質などの問題が挙げられる。  こうした問題を解決して、アカウミガメが暗くて静かで美しい浜辺で安心して産卵でき、子供たちがはだしで歩ける砂浜を次世代に残せるよう頑張っていきたい。


「アカウミガメの保護活動」の活動報告を行う
馬塚丈司サンクチュアリエヌピーオー理事長

ゾウを守る密猟防止活動

認定NPO法人 トラ・ゾウ保護基金 理事長 戸川久美

大量の草木を食べ、広い範囲を移動するゾウが自然に生きられる環境は、そこに生息するありとあらゆる動植物にとって豊かな環境を守ることになる。

しかし、絶滅の危機にあるアフリカゾウは現在37か国に42万~65万頭(ケニアは2.6~3.6万頭)が生息しているが、その生息地域は1996年の大陸の26%から2007年には15%に縮小している。また、アジアゾウは13か国に4.1万~5.2万頭(インドには3分の2の2.6~3万頭)が生息しているが、もともと(4000年前)の面積の6%に過ぎなくなっている。

ゾウを取り巻く環境は、生息地の減少・分断化、象牙目的の密猟、押し込められた生息地周辺は農地による人間との軋轢など、ますますひどくなってきている。今、国境を越えてゾウを守らなければ豊かな地球環境を次世代に残すことは難しい。このため、①ケニアにおいて、密猟を防止するため広大な地域にわたりセスナ機を使った空からのパトロール強化への支援、②インドにおいて、農作物被害、人身事故を引き起こさないよう侵入防止策の設置や森への追い返しなどへの支援、③日本でも販売されている象牙製品の消費がゾウを絶滅に追い込んでいることへのセミナーやチャリティイベントを通した普及啓発などに積極的に取り組んでいる。


「ゾウを守る密猟防止活動」の活動報告を行う
戸川久美トラ・ゾウ保護基金理事長