第4回研究・活動報告会の報告
生物多様性を考える -COP10を終えて-
- 第4回研究・活動報告会を開催-
(財)緑の地球防衛基金は、一昨年に続き、昨年11月27日(土)午後2時から、東京・品川のTKP品川カンファレンスセンターにおいて、「緑の地球をまもるために」の第4回研究・活動報告会(テーマ:生物多様性を考える-COP10を終えて-)を開催した。今回は、第1部の基調講演で、涌井史郎当財団副会長・国際生物多様性年国内実行委員会(地球生きもの委員会)委員長代行・東京都市大学環境情報学部教授から、「環境革命の時代-『生物多様性』を尊重したまちづくり『生態環境都市』を目指して-」について話があった。続いて、第2部の活動報告では、八幡平の葛根田ブナ原生林を守る会の白藤力事務局長から「楽しいブナ原生林-ブナ原生林を守ることは日本の自然を守ること-」、立山自然保護ネットワークの加藤輝隆理事から「立山連峰の自然を守る」、東京農業大学沙漠に緑を育てる会の鈴木伸治幹事から「エチオピア中央部での砂漠化防止活動」について報告があった。
参加者は熱心に聞き入り、盛会に終わった。なお、基調講演の趣旨は次のとおりである。
環境革命の時代
-「生物多様性」を尊重したまちづくり「生態環境都市」を目指して-
(財)緑の地球防衛基金副会長
国際生物多様性年国内実行委員会(地球生きもの委員会)委員長代行
東京都市大学環境情報学部教授
涌井 史郎
COP10の成果
- 今年(昨年)10月中旬から下旬にかけてCOP10/CBD(生物多様性条約第10回締約国会議)が愛知県名古屋市で開催された。遺伝資源の公正で衡平な利益の分配についてはかなりの時間を要したが、結果として多くの議題について共通の理解を生み、8年ぶりに生物多様性に関する議定書(名古屋議定書)がまとまるとともに、日本政府からの提案としての生物多様性の10年目標の決議(愛知ターゲット)をも得た。
- なかでも、愛知ターゲット並びに、SATOYAMAイニシアティブ、水田決議といった日本 政 府の提案は、日本の市民ネットワークによって政府に提案され、それがCOPに上程され 決 議されたものであり、里山や水田はアジアに特有と言っても差し支えない限定された地域 の 特性ではあるが、それが国際的な見地から評価された点は意義深い。
- これまでのCOPの議論は、一般的に発展途上国の野生生物における絶滅危惧種への懸念、が流と受け止められてきた。しかし、ようやく人が自然に適度に関わる事により保たれる 生物の多様性にも関心が集まり、そうした条件への評価の体系が認知された意味が大きい。
自律循環的システムの変調
- 人類が必要とする生物生産量は、もはや地球一つではまかないきれない。
- 地球46億年の歴史を1年の暦にした場合、4月の末から多様な生物が、競争、共存、共生 という仕組みを作り上げて、物質とエネルギーの代謝の仕組みを構築してきた。12月も暮れ ようとする時期に人類は出現し、文明の始まりとされる農業革命は12月31日の午後11時 59分、産業革命を生み出した科学技術の誕生は、その最後の2秒に過ぎないにもかかわらず、この2秒間で、1年続いた地球の自立循環的システムを変調させてしまっている。
- 1万年前には100年で1種程度だった生物種の絶滅が、現在では1日に100種、今後この状態を放置すると300種が絶滅すると言われている。
産業革命から環境革命へ
- 産業革命以降、石油を含め採掘し利用してきた様々な地下資源の払底も2030年というリミ ットが公然と言われているように、永続的には利用できない。
- その状況下で我々の子孫が未来に生き残っていくためには、生物が生存戦略の中から生み出してきた知恵に科学技術の光を当てて、もっと「生き物」に着目し、生き物が38億年生き残る中で培われた知恵を謙虚に学び科学することによって、そこから新しい未来を獲得して いかなくてはならない。
- このような状況から、産業革命に次ぐ「環境革命」が今まさに起きつつあると言えよう。 環境革命とは、持続的な未来、次世代からの収奪に歯止めを掛けることであり、当然にして 人々のライフスタイルに大きな影響を及ぼす。
生態系の変化に対する緩和と適応
- 我々が目指すべきは、単に生態系サービスの滅失速度を弱めるだけではなく、激変する環 境に対する緩和や適応という課題への対応策の模索である。さらにどのように持続的な未来 への手びきを構築していくのかが非常に重要な課題となる。
- それには、経済と社会と環境という3つの要素がバランスする社会の構築が必要となる。
- 我々は、生物多様性の経済的価値の大きさに今更ながら気づかされてきた。世界のGDP が凡そ18兆ドルであるのに対し、1年間の生態系サービスの総計は30兆ドルに達するという 試算も国連に報告されている。
- 生物多様性は、人類共通の福利の問題であり、企業も又、その取り組み方によって経営リ スクにもビジネスチャンスにもなるということを認識しなければならない。日本経団連がユ ニークな「生物多様性宣言」を昨年(一昨年)の3月にとりまとめたのもこうした趨勢を正 しく理解している証左であろう。
倫理・科学・経済
- 一方、世界は今、欧州を中心として、生物多様性の定量化を目指している。また、特に気 候変動におけるキャップ&トレードと同じ考え方を生物多様性にも持ち込もうとする動きも ある。
- こうした生物多様性市場創設の動きでは、誰がルールを作るのかが大きな問題であるが、 日本経団連の生物多様性宣言では、一方的なルールへの従属回避のため自主的に行動するこ との重要性を訴えている。
まとめ
- 今後、生物多様性のみならずあらゆる領域で「多様性」を生かした取り組みは必然になる。
- ビジネス社会も、市場を単なる需要層・消費者としてではなく、新しいライフスタイルを 共有する集団としてとらえ、企業と市民が手を組んでいく戦略が欠かせない。
- いずれにしても、生態系サービスへの認識と科学が地球の未来を救うことを前提に、人類 共同の福利のために、限りある資源としての生態系サービスを、持続性の担保された人類社 会の基盤とし、如何に人と人、自然と人とが繋がった、インタラクティブな社会を構築して いくのかを市民一人一人が考え行動するのかが、今まさに問われていると言えよう。
- また日常の市民のライフスタイルの中に、共生・循環を目指す小さな行動の積み上げが共 有される方向を大切にしたい。