第三回研究・活動報告会

第3回研究・活動報告会の報告

-生物多様性を考える-

(財)緑の地球防衛基金は、㈱セディナと協力して、一昨年に引き続き、2009年11月7日(土)午後2時から東京・大手町のTKP大手町カンファレンスセンターにおいて、「緑の地球をまもるために」の第3回研究・活動報告会(テーマ「生物多様性を考える」)を開催した。

今回は、第1部の基調講演では、(独)国立環境研究所の竹中明夫生物圏環境研究領域長から「生物の多様性を歴史と進化のしくみから見直す」について話があった。続いて、第2部の活動報告では、馬塚丈司サンクチュアリエヌピーオー理事長から「ウミガメを守る」、新井裕むさしの里山研究会代表から「トンボ等を指標とした里山の生物多様性保全」、戸川久美トラ・ゾウ保護基金理事長から「ゾウを守ることは生物多様性を保全すること」について報告があり、最後に、竹中明夫領域長から総括があった。参加者は熱心に聞き入り、盛会に終わった。

講演・報告の趣旨は次のとおりである。

生物の多様性をその歴史と進化のしくみから見直す
独立行政法人 国立環境研究所生物圏環境研究領域長 竹中明夫

今まで分かっている種類の生物は、ほ乳類・鳥類はほぼ全て、魚類・植物は9割前後、軟体動物・甲殻類・菌類は3割前後、原生動物は2割前後、昆虫・藻類・線虫は1割前後であり、多様な生物の全貌はまだ把握できていない状況にある。生物多様性とは、長い進化の歴史を経た様々な生き物が地球のあちこちにいて、それぞれの暮らしを営み様々な生態系を形作っている、その総体をいい、環境と歴史の違いにより地域ごとの特色を持っている。
(進化と種分化の仕組み)

種の遺伝的性質が世代を重ねるとともに変化することを進化という。また一つの種が二つに分かれることを種分化という。生物が多様化するには、進化だけでなく種分化が必要である。自然選択による進化が起こる条件として、①同じ種の個体間で性質に違いがあること、②性質の違いは残す子どもの数に影響すること、③性質の違いは遺伝すること、が挙げられる。どういう性質を持っていると生き残りやすいか、子孫を残しやすいかは環境次第といえる。
(地球上の生命の歴史)

今からおよそ46億年前に地球が誕生した。そこには海と大陸があった(らしい)。およそ38億年前、海の中で生命が誕生し、やがて光合成をする生物が生まれた。そして約5億年前に植物は陸に上がった。それ以前にも陸には細菌がいた。約5,000万年かけてシダ植物が進化し、それから1億年後には木生シダの森ができた。植物の陸上進出から1億年ほど遅れて昆虫が地上に進出し、更に4,000万年ほど後に脊髄動物が進出した。3億年足らず前には裸子植物(今のマツなどの仲間)が生まれて森をつくり、1億3,000 年前には被子植物(花らしい花が咲く植物)が生まれた。最近の数百万年は氷河時代で、数万年周期で氷河と間氷期を繰り返している。最近の氷期の終わりは約1万年前であり、約2万年前の海水面は今より120m低かった。そして6,500万年前にメキシコ・ユカタン半島に大きな流石があり恐竜の絶滅があった。このように、今、地球の上で見られる自然は、一朝一夕で出来たものではない。地球の歴史をフルマラソンに例えれば、5,000万年の有史時代は最後の5㎝弱に過ぎない。
(私たちは何を心配したらよいか)

人類は地球上の自然環境の中で進化してきたし、そこで社会を発達させてきた。現在の生態系機能(生態系の中での生物と環境との様々な相互作用の総体を生態系の働きと捉えたもの)が突然なくなったり変質したらとても困ることになる。38億年の進化の歴史を経た多様な生き物を大切に残していきたいと人々が思うならばそのための努力が必要である。生物多様性を考えるとき、何が失われるとどう困るのかを明らかにしつつ「困ること」(人の生活に不都合が生じること)が起こらないようにする。また、地球で人間が生きていく上で「嫌なこと」(人の愛着の対象が失われること)の回避も大切で、何が失われそうなのか目を配る必要がある。このためには「困ること」「嫌なこと」を区別して議論する必要がある。

「人間も生物だから、人間のせいで生き物が絶滅しても、それもまた自然現象ではないか?」。アンドロメダから地球を見ればそう見えるだろう。しかし、地球に住んでいる人間は、地球の環境を人間が住みにくいものとしたくない、生き物が絶滅した地球が嫌だと思うなら対策を考えるのは当然である。そのためには、①自然科学、価値観、たくさんの目で「何を保全すべきかを見極めること」、②自然科学、社会科学、人々の知識で「どうしたら保全できるのかを考えること」、③市民、企業、行政など、様々な主体が参加し「保全策を実行すること」にある。

ウミガメを守る
サンクチュアリエヌピーオー理事長 馬塚丈司

1987年に遠州灘海岸でそれまでほとんど知られていなかったアカウミガメの産卵地を発見し、以来23年間ウミガメと産卵地の保護活動を行ってきている。

アカウミガメは、世界に生息するウミガメ8種類の一つで、赤道周辺に生息し、日本の太平洋沿岸部を主な産卵地とする絶滅危惧種である。体長は1.2m、体重は150㎏を超し、主食はクラゲで貝や魚なども食べる。産卵は5~8月末で一頭が3週間毎に1回産卵し1シーズンで5回前後行う。1回平均110個程度産卵し大きさはピンポン玉ぐらいで殻は柔らかい。ふ化は産卵から60日くらいで8~10月上旬まで続く。子ガメは体長6㎝、体重15gしかなく生存率は1/5000と言われている。

現在直面している問題点は、①オフロード車の海岸走行による砂浜の荒廃、海浜植物の枯死、わだち、②海浜植物の枯死により表砂が一気にとばされ低くなった砂浜に海水が侵入する、③蛍光灯や水銀灯から出る人工紫外線の影響により子ガメが海に帰れない、④絶滅が危惧されていると言われている保護動物でありながら未だに続く盗掘、⑤海岸浸食を促進する波消しブロックなどの人工構築物、⑥クラゲをエサとするオサガメやアカウミガメがゴミを誤食して死亡する、などがある。

こうした問題点を解決して、アカウミガメが暗くて静かで美しい砂浜で安心して産卵でき、子供たちや人々が裸足で歩ける砂浜を次世代に残せるよう頑張っていきたい。

トンボ等を指標とした里山の生物多様性保全
むさしの里山研究会代表 新井 裕

活動フィールドである埼玉県寄居町(埼玉県北西部に位置する丘陵地帯で首都圏に近い里山)では、トンボ等の身近な生き物が生息できる里山環境が低下している。その要因として、①大規模工場・大型商業施設・ゴミ処分場の建設等の開発、②雑木林の管理放棄による笹の繁茂・高木化、耕作放棄水田の増加による植生の単純化・乾燥化、③水田基盤整備による水系の分断・雑木林と水田の分断、④農薬の使用・河川の汚染などが挙げられる。

当会では、里山の環境保全に向け、①放棄水田を活用した水生植物の生息場所の創出、②雑木林の管理による生物多様性の向上、③水田耕作による生物多様性の向上、④減農薬栽培による水田の生物多様性の向上、⑤調査フィールドを活用した体験活動、⑥里山の生物多様性向上に向けた提言書の作成などの活動を行っている。

今後の課題としては、①役所・学校等地域との連携の強化、②地主・農家への理解の促進、③活動を継続するための財源の確保と後継者育成の推進などが挙げられる。

ゾウを守ることは生物多様性を保全すること
トラ・ゾウ保護基金 理事長 戸川久美

大量の草木を食べ、広い範囲を移動するゾウが自然に生きられる環境は、そこに生息するありとあらゆる動植物にとっても豊かな環境である。ゾウを守ることは、多様性豊かな環境を守ることに繋がる。地球温暖化が問題となっている今、ゾウを守ることはCO2を吸収してくれる森や健全な自然環境を守ることにも繋がり、私たち人間が豊かに生きていく上で非常に重要なことである。地球規模で守らなければ環境問題は解決しない。ゾウを取りまく環境は、生息地の減少・分断化、象牙目的の狩猟、押し込められた生息地周辺は農地による人間との軋轢などますますひどくなっている。今、国境を越えてゾウを守らねば、豊かな地球環境を次世代に残すことは難しい。このため、当基金は、ゾウを守るために、①密猟を防止するためのパトロールの強化(より効果的なパトロールが行えるようにトレーニングワークショップ開催と必要な装備の配給)、②生息地の確保(保護区の地図づくりと野生動物の生息状況調査、ゾウと人とのトラブルを減少させ理解を得るための普及啓発)、③日本での啓発(象牙解禁を前にデパートへ販売状況のアンケート)等を行っている。