中国植林活動報告
これまでに終了した事業
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1. 楡林市東陽山緑化事業 (2013年〜2020年)
2-(1) 韓城市象山緑化事業フォローアップ調査 (2016年)
2-(2) 韓城市象山緑化事業 (1991年〜2000年)
3. 銅川市南寺山緑化・水土流出防止事業 (2001年〜2010年)
中国の植林支援
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(1)概要
(2)中国植林支援のあゆみ
これまでに終了した事業
1. 楡林市東陽山緑化事業
事業内容 | 東陽山緑化事業への技術、資金、物資の支援 |
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期間 | 2013年度~2020年度(8年計画) |
カウンターパート | 楡林市横山県林業局 |
活動地域 | 楡林市横山県東陽山とその周辺 |
当基金が、2012年11月に中国陝西省楡林市横山県人民政府と覚書を締結し、翌2013年から2020年まで8年間実施してきた「楡林市東陽山緑化事業」は、順調に進捗し、覚書を上回る樟子(しょうじ)松(まつ)6,484本、クルミ4,455本、合計1万939本の植林を終え、事業を完了しました。
(1)楡林市東陽山緑化事業の実施場所
植林場所は、中国陝(せん)西(せい)省楡林(ゆりん)市横山県東陽山の25ヘクタールの地です。
陝西省は、中国のほぼ中央に位置し、省都は西安(かつて中国の政治、経済、文化の中心であった長安の都)です。植林現場のある楡林市は、陝西省の最北部に位置し、西安から飛行機で約1時間かかる遠隔地です。
楡林市は、名前のとおり、もともとは楡(にれ)の林のある風光明媚な地だったのでしょうが、砂漠化が進み、覚書締結当時、中国の「防砂治沙」の重点都市に指定されていました。植林場所の気候条件は厳しく、夏の最高気温38度、冬の最低気温マイナス20度、年間降雨量は約350ミリリットルの半砂漠地で、静かに歩いても煙のような小さな砂の粒子が舞い立つ地でした。
(省は日本の都道府県にあたる地方行政区画の単位です。)
(2)これまでの事業の進捗経過
- 2012年11月13日 中国陝西省楡林市横山県人民政府と覚書締結
- 2013年~2017年 16ヘクタールの地に樟子(しょうじ)松(まつ)6,484本を植林(この間の補植786本を含めると合計7,270本を植林)
- 2018年~2020年 9ヘクタールの地にクルミ4,455本を植林(この間の補植750本を含めると合計5,205本を植林)
(造林に関する覚書)
当基金と楡林市横山県人民政府との間で締結された覚書において、①事業実施期間は2013年~2020年の8年間とすること、②造林の樹種は樟子松に加えて経済価値のある樹種の造林を検討することとし、25ヘクタールに1万400本の植林を行うこと、③当基金は、植林に要する経費として80万元(約1,000万円)の範囲内で支援すること、④横山県人民政府林業局は、造林計画の実施、施工の監督・管理・検査・検収・費用の支払いを担当することなどが定められました。
(樟子(しょうじ)松(まつ)6,484本の植林)
「樟子松」は蒙古アカマツとも言われ、乾燥に強く楡林市の砂漠区造林における重要な樹種です。2013年から2017年の5年間に6,484本(補植を含めると7,270本)が植えられました。1ヘクタール当たりの植林本数は約400本で、現在、樹高約1.8~3.0メートル、樹冠の幅約0.8~1.8メートルに達し、防護林として順調に成長しています。
(クルミ4,455本の植林)
「クルミ」は、耐寒性、耐干魃性に優れた特長を有しており、また、果実の市場価格も高く、楡林市が近年普及に注力している経済樹林です。前述の覚書においても「経済価値のある樹種の造林を検討すること」とされ、2018年から2020年の3年間に4,455本(補植を含めると5,205本)が植えられました。現在では、樹高約1.2メートルに達しています。
「2020年には最初の収穫期を迎える」予定でしたが、2020年は何十年振りの干害に見舞われ、春の寒さも重なり、クルミの収穫は一部にとどまったようです。しかし、クルミの市場価格は高く、今後は現地に経済収益をもたらし、住民の生活水準を高めるとの高い期待が抱かれています。
(3)本件植林事業の評価、今後の対応
現地政府と住民からは、本件植林事業に高い評価が寄せられています。日中が協力して造成した林が、今後長きにわたって、安定した防風防砂効果と経済効果をもたらすよう見守っていく所存です。
楡林市
楡林市は陝西省の北部にあり、東側に黄河を境として山西省、北は内蒙古に接しています。楡林市全体がモウス砂漠から黄土高原への移行地帯に位置している街です。雨量が少なく植物の生育には厳しい環境にありますが、もともとは楡の林があり、楡林市と名前が残っている地です。風食による砂の侵入と人為的な緑の収奪により砂漠化が進んだことから、中国の「防砂治沙」の重点地域に指定されていました。
東陽山
東陽山は、横山県市街地から東南8㎞にあり、総面積約262haでそのうちの植林すべき荒地は110haです。当基金は東陽山とその周辺地域25haにアカマツ、障子松等の植林を行うこととしていました。なお、東陽山地区は、年間降雨量は390㎜、最高気温38.4度C、最低気温零下20度Cとなっています。
これまでの経緯
ここをクリックすると、「楡林市東陽山緑化事業」の詳細な経緯が表示されます。
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以下「これまでの経緯」を年代の古い順に掲載
①当基金と楡林市横山県人民政府との間で造林に関する覚書の締結(2012年11月13日)
2011年11月13日の基金設立30周年記念フォーラムにおいて、公益財団法人緑の地球防衛基金と中華人民共和国陝西省楡林市横山県人民政府との間で、外務・農林水産・環境の各省関係者の立会いの下、造林に関する覚書の署名・交換が行われました。
その概要は、
- 1 基金と楡林市横山県人民政府は、楡林市横山県東陽山とその周辺地域において、双方が協力して緑化のための造林事業を進める。また、日本の協力により造成する植林地をモデル林として活用し地元民の所得向上につなげる。
- 2 基金は、楡林市横山県が2011年から実施している10年造林計画のうち、楡林市横山県東陽山の25haについて受け持ち、2013年から8年間の計画で造林を行う。その区域については、楡林市横山県人民政府が造林する区域とは完全に分離する。造林の樹種は、障子松、アカマツとする。これに加えてモデル林として経済価値のある樹種の造林を検討する。
- 3 基金は、2に要する経費について、最大80万元(約1,000万円)の範囲内で支援する。
- 4 2の造林計画は、楡林市横山県人民政府林業局が責任をもって実施するものとし、施工の監督・管理・検査・検収・費用の支払いを担当する。基金は、2の実施にあたり、造林にあたっての知見、植林技術ネットワークの構築、地元民の所得向上等について、楡林市横山県人民政府林業局に対し、意見を述べ、また、実施状況について説明を求めることができる。
- 5 基金及び楡林市横山県人民政府は、本造林事業を広く日中両国の国内に周知を図るよう努める。この一環として、基金は楡林市横山県人民政府の協力を得て「ボランティア植林ツアー」の企画に取り組む。
となっています。
(調印後握手する大石正光当基金理事長と劉維平楡林市横山県長)②中国楡林市東陽山の植林始まる-盛大に記念式典・植樹の実施(2013年5月)
2012年11月東京において、署名・交換が行われた覚書に基づき、2013年から2020年の8年間、横山県東陽山において、新たな形態の緑化協力事業が始まる。これを記念して、5月10日植林地の東陽山において、日本側から、大石理事長をはじめ5名、中国側から劉横山県長をはじめ約50名が参加した記念式典と記念植樹が盛大に行われました。
式典は劉横山県長のあいさつに始まり、続いて大石理事長のあいさつが行われました。この後、記念植樹として、参加者が植樹のための穴掘りや水やり、水槽づくりなどを行い200本の障子松を植えられました。
記念式典に臨む大石当基金理事長(右から6人目)と劉横山県長(理事長の左隣り)
記念式典であいさつする劉横山県長
記念式典であいさつする大石当基金理事長
記念植樹をする大石当基金理事長と劉横山県長
植えられた障子松
簡単なビニールシートの水槽から水をくみ植林場所に運ぶ地元住民③3.2haに樟子松の苗木1,296株を植樹(2014年3月)
中国陝西省楡林市横山県林業局から東陽山の緑化事業に関する2013年の植樹について報告がありました。
同報告では、植樹に先たち施工業者を入札により決めた後、施工する緑化業者が昨年8月6日から10日までの5日間にわたり、東陽山麓の3.2haに高さ100cmの樟子松の苗木1,296株を植樹しました。
植樹された樟子松は、蒙古アカマツとも言われ、原産地は大興安嶺で、1964年に楡林市の沙漠区おいて植栽がはじめられ、良好な成長と緑化に適した喬木樹種です。近年では、樟子松が横山県沙漠区造林の一つの重要な樹種となっているとのことです。
植樹に当たっては、①縦1.5m、幅1.5m、深さ0.3mの大坑整地を行い、その中に長さ0.5m、幅0.5m、深さ0.5mの植樹穴を作る、②植樹密度は1本につき4m×6mとし、1ha405本とする、③一定量の土壌を付けた苗を植える、④水遣りは植樹したその年の天候状況を見て1~2回行う、⑤手入れは翌年に補植を行い、生存した植樹に対しては3年以内に下刈り、虫害など養生措置をとることにしています。
④樟子松の苗木1300株を植林 -2014年春季植林-
(2014年6月)中国陝西省楡林市横山県東陽山緑化事業の春の植林活動は4月、200人のボランティアを集めて行われました。植林は、昨年の植林地と連なるところで、面積は約3.2haです。植えた苗木は、高さ100~120㎝の樟子松1300株です。 植林に当たっては、①縦1.5m、幅1.5m、深さ0.3mの大坑整地を行い、その中に長さ0.5m、幅0.5m、深さ0.5mの植林穴を作る、②植樹密度は1本につき4m×6mとし、1ha405本とする、③一定量の土壌を付けた苗を植える、④水遣りは植樹したその年の天気状況を見て1~2回行う、⑤補植をその年の夏に行うことにしています。 春季の植林活動に要した経費は、土地の整備と道路の修繕、苗木の購入費、苗木の運送費、注水することにかけた費用、その他の経費の合計7万6,150元(約131万円)となっています。
⑤樟子松の苗木240株を補植 -2014年秋季植林-
(2014年9月)春季植林の抜き取り検査をした結果、植林した苗木の生存率は85%となり、8月に高さ100~120㎝の樟子松240株の補植を行いました。
秋季の植林活動に要した経費は、土地の整備と道路の修繕、苗木の購入費、苗木の運送費、注水することにかけた費用、その他の経費の合計1万1,050元(約19万円)となっています。
⑥春に3.2haに樟子松の苗木1,350株を植樹、
秋に670株の苗木を補充植樹(2015年10月)中国陝西省楡林市横山県林業局から東陽山の緑化事業に関する2015年の植樹について2回にわたり報告がありました。
当基金と楡林市横山県との間の覚書に基づき、25ha、1万400本を2013年から2020年の8年間に分けて、毎年約3.2haを完成することになっています。
植樹にあたっては、植樹の施工は入札と請負方法を採用し、苗木の購入、整地、灌水、3年間の管理保護は落札した緑化業者が請負、横山県林業局は請負契約を締結し、責任をもってプロジェクトの管理、監督、検査及び検収並びに資金の払い出しを行うこととしています。また、植樹に当たっては現地の灌木、河北ポプラ・早柳等の落葉高木を保全しながら樟子松や油松を植えるほか、農民が85%を占めていることから、できるだけ現地労働者を雇うことにしています。
3年目となる2015年は春と秋の2回行われました。春の植樹は4月行われました。植樹地は一昨年、昨年植林した場所に隣接する東側で3.2haに高さ100~120cmの樟子松の苗木1,350株を植樹しました。また2か月後の活着(根付いた)率は90%と良好のことでした。秋の植樹(8月)は植林全体の活着率を確保するため、3年間の植樹に対して、全面的に苗木の補充を行い、高さ100~120cmの樟子松の苗木670株を植樹しました。今年の植樹活動に要した経費は、苗木の購入費3万6,360元(2,020株×18元)のほか、土地の整備(穴掘り)、苗木の運送費、植樹の人件費、水の運搬と水遣り等で7万7,710元となっています。なお当基金は、春と秋の植樹に要した経費の一部として100万円を支援しています。
⑦樟子松の苗木3,182株を植林
-2016年植林- (2016年8月)中国陜西省楡林市横山県林業局から東陽山の緑化事業に関する2016年の植林について報告がありました。
本件事業の4年目にあたる今年は春の植林時期である4〜5月頃の雨量が乏しく、植林しても生育が見込みにくい等の判断から、8月12日から22日にかけて植林が実施されました。
今年の雨季には土壌の湿度も良く苗木の供給も十分であったため、2016年と2017年の2年分の植林目標がこの1年間で達成でき、それと同時に、2013年から2015年の植林地に対する補植も行われました。
今年植えた苗木は、苗床で6年間育てた高さ120〜150cmの樟子松(自然環境が厳しいためある程度の大きさまで苗床で生育させる必要があります。)で、植林本数は、新たな植林地用2,592株、補植用590株、合計3,182株です。
今年の植林活動に要した経費は、土地の整地に2万736元、苗木の購入費4万4,548元、苗木の運搬と梱包費9万546元、植林の人件費2万3,850元、水の運搬と水遣り1万9,092元(3回に分けて実施)、その他経費3,182元の合計12万954元(約200万円)となっています。
当基金は、今年の植林に要する経費として、本年5月に100万円(当時の換算レートで6万4,410元)を支援し、残りは来年以降に手当てしていく予定です。
植林前の風景
苗木。苗床で6年間育てた樟子松
植林後の風景⑧樟子松の苗木196本を補植。8年計画は順調に進展
-2017年植林-(2017年4月)中国陜西省楡林市横山県林業局から東陽山の緑化事業に関する2017年の植林について報告がありました。
本件事業の5年目にあたる今年の植林は、次のとおりです。
- 1 昨年以降は天候が良く、特に2017年春は降水量も比較的多かったので、苗木の生育は順調です。
- 2 日中協力の植林面積は、目標面積25ヘクタールに対して2016年夏(計画4年目)までに16ヘクタールに達し、2016年8月分だけで2年分の目標を達成するなど、これまで順調に進展しています。2017年の今春には、植林面積を広げず補植のみ行なうこととし、2017年4月に196本の補植を実施しました。
- 3 補植費用は、苗木の購入3,312元、水遣り等の人件費2,125元の合計5,437元となっています。(1元約16.5円と換算して約9万円)
⑨クルミの苗木4,455本を植林。覚書に基づく25ヘクタールの植林が完成 ― 2018年植林 - (2018年5月)
中国映西省楡林市横山県林業局から、東陽山の緑化事業に関する2018年の植林について報告がありました。
本件事業の6年目にあたる2018年の植林は、次のとおりです。
本件事業の開始から6年目となる2018年5月、これまでの植林地から約3キロ離れた新たな9ヘクタールの地に植林を実施し、覚書に記された25ヘクタールの植林プロジェクトが完成しました。
樹種は、クルミ4,455株です。
今回選定されたクルミは、楡林市が近年大いに注力し推し進めている経済樹木です。クルミは耐寒性、耐旱魃性に優れた特長を有しており、土地が痩せて日当たりが強く、旱魃地である黄土高原においても、谷間にしっかり根付いています。横山県(現在は楡林市横山区)には、元々一定量のクルミの分布がみられ、その生産量や品質とも優れたものがあることから、今般の植林による高い経済効果が期待されています。
なお、今回のクルミはすべて幅広な棚田(段々畑)へ植樹されたため機械化作業を容易にし、人力を省くことが可能となりました。横山区の2017年の年間降雨量614ミリメートルで、本年も昨年同様レベルの降雨量を予想しています。クルミは一旦成長し始めると、通常は自然降雨以外に、別途の水やり等は不用となります。2018年5月に植樹した土地の選定に当たっては、正にクルミの特性に合わせたものとなっています。
クルミは一般的には植樹後3年目から収穫期に入ります。以降徐々に収穫量は増えていき、植樹後5年目には1ヘクタール当たり果実収穫量が2千キログラム(2t)以上、生産価格1万元以上(円貨16万円相当)に、また、最盛期の8〜10年目には1ヘクタール当たり果実収穫量が10t以上、生産価格5万元以上(円貨80万円相当)となる見込みです。
2020年には最初の収穫期を迎え、2028年以降には収穫の最盛期に入る予定です。
2018年のクルミの植林地風景
植えられたクルミの苗木
クルミの植林風景
段々畑に規則正しく植林を実施⑩樟子松6,480株、クルミ4,455株が順調に成長
-2019年植林―(2019年8月)中国東陽山緑化事業は、当基金と陝西省楡林市横山県との間で交わされた「造林に関する覚書」に基づき、2013年から2020年までの8年間、陝西省東陽山において25ヘクタール、1万400株の植林を行うこととして取り組まれてきました。 陝西省は中国のほぼ中央に位置し、省都は西安(かつて中国の政治、経済、文化の中心地であった長安の都)です。植林現場のある楡林市は、陝西省の最北部に位置し、西安から飛行機で約1時間かかる遠隔地です。気候条件は厳しく、夏の最高気温33度、冬の最低気温マイナス20度、年間降雨量約550㎖の半砂漠地です。
2017年までの5年間の取組
2013年から2017年までの5年間に、6,480株(補植を含めると7,270株)の樟子松が、16ヘクタールの地に植林されました。植林現場のある楡林市は、名前のとおり、もともとは楡(にれ)の林のある風光明媚な地だったのでしょうが、近年砂漠化が進み、中国の「防砂治沙」の重点都市に指定されていました。
砂漠化が進む厳しい環境条件での植林でしたが、2019年6月時点で、苗木の高さは最高2.7m、最低でも1.5mに達し、活着率も87.9%と良好な数字を示しています。
防護林として順調に成長している本件植林地には、防風防砂、水と土の保持、空気の浄化、環境美化等の多くの効果が期待されており、当地の生態防護システムとして欠かすことのできないものになりつつあります。2018年、2019年の2年間の取組
緑化事業の開始から6年目となる2018年5月、それまでの植林地から約3キロ離れた地に、新たに9ヘクタールのクルミの植林を実施し、覚書に記された25ヘクタールの植林プロジェクトが完成しました。
2019年6月には750本が補植され、クルミの植林本数は補植を含めると5205本となっています。
2019年6月時点での苗木の活着率は92.3%と良好です。成長状態も良く、まだごく少数の木ですが、2019年に実を結びました。
2020年にはほとんどの苗木が実を結ぶ見込みです。
クルミは耐寒性、耐旱魃性に優れた特長を有しており、土地が痩せて日当たりが強く、旱魃地である黄土高原でも、谷間にしっかり根付いています。現地では本件植林事業による高い経済効果が期待されています。今後の本件植林事業への対応
中国東陽山緑化事業は、事業開始から本年までの7年間で、25ヘクタールの地に、覚書を上回る10,933株(楠子松6,480株、クルミ4,455株)の苗木を植え付けることが出来ました。
残り1年間は新たな植樹はせず、今まで植樹してきた林の補植やメンテナンス管理をしっかりと行い、25ヘクタールの植林を完成させていく予定です。
日中が協力して造成した林が、今後長きにわたって、安定した防風防砂効果と経済効果(利益)を両立できることを強く願っています
2-(1)韓城市象山緑化事業フォローアップ調査
韓城市象山の緑化事業(1991年〜2000年)の歩み
韓城市象山緑化事業は、1991年に開始し、2000年に終了しました。
象山は「石の上に土の帽子」といわれ、また、年間降水量が400~500ミリリットルと雨が少なく、灌漑設備も不完備で、植林するには極めて困難な環境にありました。そのため、当財団が協力する前にも幾度か植林が試みられたものの、はげ山のまま荒れ果てていました。
事業は、日中双方で協議し、当財団が毎年約10万元(初年度は当時の円換算で約320万円)の助成をし、中国側が植樹等の実施を担当しました。
事業は、①貯水池、給水器27か所、揚水施設やスプリンクラー3基など、ひどい乾燥に対する給水対策、②象山の土壌に適する樹種の選定、③累計42,600人を動員した韓城市側の努力などが重なって徐々に成果を上げ、2000年の事業終了時点の植林数は、ニセアカシアなど24樹種、22万本余に達しました。
次に掲載した写真が、事業開始当初からの象山の状況です。1992年の「緑化事業開始記念式典」直後の象山はほとんど樹木がありません。しかし、1993年9月の植林後の姿を経て、2016年9月時点には、かつてのはげ山が緑の山になっていることが見て取れます。当初植林した樹木は、約四半世紀を経て立派に生長していました。
日中協力の本事業は2000年に終了しましたが、韓城市政府はその後も植林を継続し、2011年には、象山を市観光開発プロジェクトに加える象山森林公園建設構想を打ち出し、2018年に完了する予定です。
象山は市民の憩いの場となっており、「中日合作象山緑化記念事業碑」も市民の目に触れるところに設置されるなど、本事業は高く評価できましょう。
韓城市象山での「緑化事業開始記念式典」直後に、植林事業に向かう韓城市民。
(1992年3月)
ほとんど樹木がないことが見て取れる。
翌年秋の植林後の姿
(1993年9月)
2016年、ホテルの窓から撮影した象山。
(左に鼻を伸ばし、伏せている象の姿から「象山」という。)
かつてのはげ山が、緑の山となる。山頂付近では森林公園が整備され、市民の憩いの場となっている。塔が見えるのは、誘致された仏教寺院。
(2016年9月)
韓城市人民政府との協議風景。
日本側:大石正光理事長
韓城市側:王云章副市長
(2016年9月)
大石武一会長が植林した木を背にする大石理事長
(2016年9月)
山頂の公園の一角に建てられた「中日合作象山緑化事業記念碑」。
大石武一会長ほか当時事業に参加した方の名前が読み取れる。
(2016年9月)
2-(2)韓城市象山緑化事業
事業内容 | 象山緑化事業へ技術、資金、物資の支援 植林ボランティアの派遣 |
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期間 | 1991年度~2000年度(10年計画) |
カウンターパート | 中国陝西省韓城市農林局 |
活動地域 | 中国陝西省韓城市象山 |
韓城市
古都、西安の北東270kmの黄河沿いにあり、黄土高原の南端に位置する。西漢時代の史学家、司馬遷など、古代から名士を輩出した地域でもあり、炭鉱とサンショウの生産地として知られている。
総面積1,621平方キロメートル、森林面積は26%。総面積の7割が山地だが、その多くがハゲ山である。かつて豊かだった山林は焼畑などによって失われ、土壌流出が進みハゲ山になった。
人口は32万人余り、78%が農業を営む。住民の緑化への意欲は高く、市内各所で着々と植林が進められていた。中国全土の中では緑化が進んでいる方で、2千以上ある県や市のうち、緑化実績は百以内に入る。
象山
標高約640メートル、総面積77.5ha。そのうち植林可能な面積は67.2ha。なだらかな丘のようでその名の通り遠くから見るとゾウの形に見える。土中に岩石質が多く、地元では「石の上に土の帽子をかぶった山」といわれている。乾燥がはげしく、年間平均降雨量500ml以下。
周辺には炭田、火力発電所、市街地などがあり、空気や川の水も汚染が進んでいる。
植林事業開始
中国では、毎年、3月12日は「植樹節」。各地で市民が集まり植林を行う。
象山で緑化事業開始記念式典を開催。
当基金から会長やボランティアらを現地に派遣、植林に参加した。
山頂付近に建てられた記念碑の除幕式で、植林のために集まった韓城市民を前に、当基金会長(当時)がスピーチ。
「私たちの生活を守るのは森林です。10年間、手をたずさえて象山緑化に努力しましょう」と呼びかけた。
(写真:1992年3月)
日中緑化協力の記念碑
「中国・韓城市人民政府、日本国・緑の地球防衛基金合作建設、象山緑化工程1991年-2000年」と彫られている。
事業開始時点ですでに終了年度まで彫られてしまっている。「途中で挫折できないな」と基金関係者は苦笑した。
(写真:1992年3月)
象山の植林予定地
式典参加後、植林地へ向かう韓城市民。
山中に樹木はほとんど見あたらない。
平らに開墾された耕作地では、麦やトウモロコシが栽培される。
(写真:1992年3月)
貯水池
直径25メートル、深さ4メートル。配水管を敷設し、麓の川から水を汲み上げる。
同市農林局では生態環境の改善と景観美化のため幾度か植林を試みたが、はげしい乾燥のため失敗に終わっていた。
当基金の支援決定をうけ、まずは山中に植林作業効率化のための簡易公道の敷設、乾燥対策として貯水池、給水管など給水施設を設置した。
(写真:1993年9月)
植林地
植樹は春と秋に行う。特に春の植樹節に市民の協力により大々的に植林。
活着率を良くするため、ある程度大きく生長した苗木を植樹する。
土中に岩石質が多いので、植林の前に石を掘りだして肥えた土を入れかえる。
その他の時期は整地、穴掘り、樹木の育成管理を行う。
乾燥が厳しいので、植林後の灌水が重要。活着率に影響する。
(写真:1993年9月)
ニセアカシア
象山に植林した樹種の中で一番活着率が良かったのは乾燥に強いニセアカシアで、土砂崩れの防止に効果があるといわれている。
他に、マンシュウクロマツ、コノテガシワ、アカナツメなどが多く植えられた。
この地域特産のサンショウも植えられた。サンショウ、アカナツメの実は市場に出荷され、収益となった。
同じ山中でも場所によって適する樹種が違うため、枯死した苗木を抜いた後には他の樹種を補植した。
(写真:1993年9月)
スプリンクラー
植林事業が進むにつれて灌水に必要な水の量が増え、また、異常気象による降水量不足により、貯水池の水量では間に合わなくなった。
15キロ離れたダムから水を補給することになり、市民用給水パイプから山頂の貯水池まで水を汲み上げる揚水施設を設置。
スプリンクラーを3基設置。灌水設備の補充により、各樹種とも設置前に比べ苗木の活着率が改善された。
象山森林公園の門
山頂に森林公園を造成。山門やあずまやなどを設け、市民の憩いの場となった。
3~10月の行楽シーズンには毎日、20~50人の市民が入山、夏には2百人以上がハイキングに訪れた。
(写真:2000年6月)
象山緑化事業終了
10年計画終了時点(2001年3月)の生存木は24樹種、222,372本。当初目標の22万本を上回った。
植林作業の参加者は延べ、5万人以上。
あずま屋に設置された植林完了の記念碑には、象山植林のあゆみと、日中双方の植林参加者の名が刻まれていた。
韓城市長と当基金理事で、記念碑の除幕、記念植樹を行った。
(写真:2001年3月)
3. 銅川市南寺山緑化・水土流出防止事業
事業内容 | ・南寺山緑化・水土流出防止事業への技術、資金、物資の支援 ・植林ボランティアの派遣 |
---|---|
期間 | 2001年度~2010年度(10年計画) |
カウンターパート | 中国陝西省銅川市農林局 |
活動地域 | 中国陝西省銅川市南寺山 |
銅川市
人口85万人。石炭等の地下資源が豊富。森林率は24%。市民の半数は農業を営んでおり、黄砂の被害に悩まされている。
南寺山
西安の北方120km、黄土高原の南端にあたる。標高590m、年間降雨量は450~610ml、年平均気温は12.3度。市街地に近く、山沿いに鉄道、高速道路が走る。近くに観光名所の耀州窯博物館があり、年間10万人近い観光客が訪れる。博物館から植林地が見渡せることから、樹形の美しいコノテガシワ(中国原産)を植えて観光客に植林地をアピールし、植林への関心を高めることが期待される。
南寺山の植林地
なだらかな丘のような象山に比べ、南寺山は地形が険しく、植林できる土地の面積が全山表面積の41%ほどしかない。
植林事業開始にあたり、コノテガシワ、ニセアカシア、マンシュウクロマツ、サンショウ、ナツメの5樹種、各10本の苗木を試験植樹した。
地元原産種を優先し、試験植林の結果を見て植林樹種を決める。
(写真:2004年3月)
乾燥に耐えられるように、大きめに育てた苗木を植える。植え穴は直径、深さとも1mに掘る。
下刈りは年2回、植樹後3年続け、3年で枝打ちをする。
植林後の水やり
乾燥がはげしいため、給水施設の設置が欠かせない。
コンクリート製の貯水槽2個、深井戸から水を汲み上げるための電力設備を設置。
山中各所に放水管を敷設。
南寺山は起伏が激しく、死角ができるため、スプリンクラーは導入できない。
写真は給水施設が未完成だった時期の灌水の様子。
麓の川から水を汲んで給水車で植林地まで運び、バケツと天秤棒で灌水している。
(写真:2003年3月)
植林地の中の麦畑
一面に生えている緑の草は近隣の農家が許可を得て栽培している麦の苗。
その脇に植えられている常緑樹が植林した苗木。
中国政府は山間地の耕地を林地へ転換することを奨励している。
(写真:2003年3月)
植林されたサンショウの木
サンショウはこの地方の名産で、南寺山でも市場での出荷をめざして多く植えている。
土壌の栄養分が少なく、保水力も低いため、事業開始当初は活着率が低かった。
試行錯誤の結果、適地適性樹種や灌水の必要量などが分かってきたため、次第に良好な活着率を維持できるようになってきた。
枯死の主因は乾燥。近くのセメント工場から飛散するセメント粉や黄砂の嵐も一因と考えられる。
給水施設の完備と、苗木購入の際の念入りな検査が活着率の保持に役立っている。
写真は植林されたイブキの苗木。
乾燥に強いヒッポファエの苗木
事業開始当初、象山にくらべ黄土が比較的やわらかいため植林しやすいのではと思われたが、乾燥は象山よりも更に厳しい。
砂漠に植える樹種としてしられる2樹種を植林したところ、活着率ポピュルス93%、ヒッポファエ95%と良好な生育ぶりを見せた。
山中の畑
山中の畑でトウモロコシを栽培する農家。
ナツメ
タイワンネズ
南寺山の配水管敷設工事完了
南寺山は黄土高原南端にあり、砂漠化にさらされた半乾燥地です。年間降雨量は400~500ミリ。事業開始当初から植林にはまず、給水施設の設置が不可欠であるといわれてきました。 2002年、山の一角に貯水槽(容量200立方メートル)を設置しました。 貯水槽には、南寺山から2.4キロ離れたところにある深さ180メートルの深井戸を利用、配水管を敷設して水を引き、貯水します。 その後、貯水槽に蓄えた水を全山に給水するための、全長8キロに及ぶ配水管敷設工事を進めました。 2004年冬、さらにもう1つ貯水槽(容量300立方メートル)を設置、全山への配水管敷設工事が完了。各植林地に設けられた給水器から放水できるようになりました。 これまで南寺山ではふもとの川からリヤカーで水を運び上げ、天秤棒とバケツを使って灌水していました。 人力による灌水は重労働である上、ふもとの川は近隣の工場、住宅地からの排水により汚染されており、植物の育成には不適切でした。 南寺山は起伏がはげしく死角が多いため、自動で灌水できるスプリンクラーが利用できず灌水には人手がかかりますが、今回の給水施設の設置により、きれいな井戸水を利用できるようになり、灌水の労力も削減されました。 灌水も適宜行うことができるようになり、苗木の活着率の低下防止に役立っています。
植林事業が完了
陜西省韓城市象山に続き、植林を進めてきた同省銅川市南寺山の緑化・水土流出防止事業が2010年10月に完了した。古都西安の北120㎞の黄土高原南端に位置する南寺山は、付近にセメント工場や博物館があり、春には黄砂が発生し偏西風に乗りわが国にも到達している。この黄砂は人の健康に大きな影響を与えている。このため、省政府から緑化事業の要請があり、2000年秋に試験植林を行い、2001年から本格的に植林を始め、計画どおり10年後の2010年秋に完了した。
-盛大に完了式典が行われる-
完了式典は、2010年10月19日に植林地の銅川市南寺山中腹で盛大に行われた。当基金からは大石 正光会長を始め4名が参列した。
式典は、劉先蓮陜西省外事弁公室副主任・対外友好協会副会長の挨拶に始まり、大石正光当基 金会長等からの挨拶があった。劉女史は、挨拶の中で、大石会長率いる緑の地球防衛基金による この植樹緑化プロジェクトへの支援は、地元の自然環境や居住環境の改善に貢献し、現代から千 秋の時を経てもなおその功徳は続くものと感謝の辞を述べられた。続いて、中日友好林記念碑の 除幕、記念植樹が行われた。
中日友好林記念碑は中国語と日本語で記載され、その内容は次のとおりである。
中日友好林記念碑
王益区南寺山の「中日友好林」は、日本国の緑の地球防衛基金の無償援助1500万円で 実施されたプロジェクトであり、2001年に始まり2010年秋に完成した。
日本国の緑の地球防衛基金は、生態系の環境保護を目的に砂漠化の防止を推進するため 、日本国の初代環境庁長官である大石武一氏の発起により、日本国の国会議員、自然を愛 する人士で組織された民間団体である。
「中日友好林」は、蜀松、刺柏、龍柏、側柏、花椒、刺槐、毛白楊、沙棘、雪松、女貞 、柳樹、中槐、紫穂槐、柿木樹等の樹種、合計144,040株であり、緑化面積は50haである。
その後、式典周辺の植林地を視察した。
記念植樹をする大石会長
南寺山の表面積は、83.9haであるが、山の地形が険しいことから、植林適地は約41.6%の 34.7ヘクタールに留まった。当初ここを植林することにしていたが、その後、銅川市は少なくと も山全体の50haを緑化したいとの意向を打ち出した。当基金も銅川市の要望を受入れ、約10haに ついては地域住民の理解を得ながら山中に散在する畑を植林する「退耕還林」を行い、残りの約 5haについては山沿いの国道沿いにある博物館周辺に植林することになった。
(写真:2010年10月)
中日友好林記念碑
中国銅川市南寺山の植林緑化実績
(単位:本)
樹 種 | 年 別 植 林 本 数 | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2001年 | 2002年 | 2003年 | 2004年 | 2005年 | 2006年 | 2007年 | 2008年 | 2009年 | 2010年 | 合 計 | |
蜀檜 (イブキ) |
800 | 2,290 | 1,542 | 1,150 | 1,000 | 1,000 | 1,200 | 1,200 | 1,000 | 210 | 10,392 |
刺柏 (タイワンネズ) |
980 | 830 | 890 | 1,000 | 1,000 | 1,500 | 200 | 200 | 6,600 | ||
龍柏 (ヒノキ) |
300 | 300 | |||||||||
側柏 (コノテガシワ) |
500 | 3,000 | 1,200 | 1,764 | 2,000 | 2,000 | 3,000 | 300 | 300 | 14,064 | |
花淑 (サンショウ) |
12,000 | 11,000 | 2,000 | 25,000 | |||||||
刺槐 (ニセアカシア) |
4,900 | 2,100 | 500 | 494 | 7,994 | ||||||
毛白楊 (ポプラ) |
3,200 | 1,000 | 6,000 | 910 | 6,000 | 6,000 | 8,400 | 31,510 | |||
沙棘 (ヒッポファエ) |
6,590 | 7,200 | 12,000 | 1,400 | 27,190 | ||||||
雪松 (ヒマラヤスギ) |
20 | 1,000 | 800 | 1,020 | |||||||
女貞 (トウネズミモチ) |
10 | 10 | |||||||||
桜花 (サクラ) |
10 | 10 | |||||||||
柿子 (カキ) |
3,000 | 3,000 | 3,000 | 1,000 | 1,000 | 11,000 | |||||
柳樹 (ヤナギ) |
1,000 | 500 | 500 | 2,000 | |||||||
中槐 (エンジュ) |
1,000 | 500 | 650 | 2,150 | |||||||
紫穂槐 (コマツナギ) |
2,000 | 1,000 | 3,000 | ||||||||
総 計 | 29,270 | 27,460 | 21,242 | 8,608 | 13,000 | 13,000 | 18,100 | 7,200 | 4.500 | 1,660 | 144,040 |
中国の植林支援
1. 概要
中国の森林
世界第3位の国土面積を持つ中国は、ロシア・ブラジル・カナダ・米国についで5番目に広い森林面積を擁しています。しかし森林率(総面積に占める森林面積の割合)はわずか17.5%(2000年現在)。世界平均の29.6%にも及びません。(国際連合食糧農業機関編「世界森林白書 2001年」より)
中国を代表する大河、黄河の流域は、古代文明の発祥地であり、古くから農耕が営まれてきました。古代王朝が成立し、次第に人口が増加してくると、食糧や薪炭材、建築材の需要が急増。周辺の森林が伐採され農地に転換されていきました。技術の発展に伴い、鉄器やレンガを生産するための産業用エネルギーとして木材の利用が広がり、万里の長城や宮殿などの大規模な土木工事や船舶の建材として大量の樹木が伐採。また、戦乱により森林破壊が進みました。長年続けられてきた森林破壊は近代以降も続き、第二次大戦後の中華人民共和国建国当時(1949年)、森林率はわずか8%しかなかったと言われています。
森林資源の枯渇と環境の悪化に危機感を持った中国政府は、1979年、新中国初の「森林法」(試行)を成立。森林の保護・管理の強化、国民への植林の奨励と義務化、三北防護林の造成など国家的プロジェクトによる大規模な造林事業を進め、森林の保全・回復に努めています。
水土流失と砂漠化
中国は、内陸部を中心に国土の半分以上が大陸性の乾燥・半乾燥気候で、北西部には広大な砂漠地帯が分布しています。こうした乾燥・半乾燥地域では生態系がもともと非常に脆弱で、森林破壊による植生の消失や、過耕作、過放牧といった過度の土地利用が、しばしば水土流失や砂漠化を引き起こします。
水土流失は、水食や風食などによって養分を多く含む表土が削り取られ、地力が低下する現象です。森林の伐採や開墾、過放牧によって植生が無くなり、地表がむき出しの状態になると、風雨による浸食が始まります。表土が流出し地力が低下すると、植生の自然回復力も低下するため、土壌の劣化はますます進みます。特に山間地や風砂地区では水土流失が起こりやすくなります。
中国では国土の37%の地域において水土流失が見られるといわれていますが、多くの貧しい農家がそうした生産性の低い農地で耕作を続けています。荒廃地化した耕地の放棄や、減った収穫高を補うために新たな耕地を開墾することによって、さらに水土流失が進むという悪循環が起こっています。また、浸食によって流れ出た大量の土砂は、河川やダムに堆積します。ダムの貯水能力は低下し、下流域では土砂の堆積によって河床が浅くなり、洪水被害を激化させます。黄河には年平均16億トンの土砂が流入、毎年8~10センチメートルずつ河床が上昇しています。
砂漠化とは、乾燥・半乾燥・乾燥半湿潤気候の、本来、植物が生育できる地域において、人為的影響により地力が著しく低下し、植生が長期間喪失してしまった状態のことで、過放牧、過耕作、森林の過剰伐採など、その土地の許容限度を超えた土地利用によって、土壌の劣化や固定砂丘の活性化を招くことによって引き起こされます。
中国国内に分布する砂漠の総面積は約174万平方キロメートル、国土面積に占める割合は18.7%。年に平均2460平方キロメートずつ拡大していると言われています。
黄砂による被害
黄砂とは、中国内陸部の砂漠や黄土高原から強風によって大気中に舞い上がった砂が落下する降塵現象です。日本にも偏西風によって運ばれ、主に春先に見られるため、春の風物詩と言われてきました。
黄砂の発生源となる中国内陸部の乾燥地域では、春にしばしば強風が発生し、砂を巻き上げてはげしい砂塵嵐が起こります。家屋の倒壊や埋没、遭難や事故、呼吸器系等への健康被害などにより死傷者が出るほどの甚大な被害をもたらします。
農業被害も深刻で、耕地の埋没、作物の枯死、家畜の遭難や死亡などにより、被害は毎年7千億円相当にも及ぶといわれています。
近年、大規模な砂塵嵐が頻発するようになり、被害がひどく、広範囲にわたるようになっています。気候変動による内陸部での少雨と高温、気流の変化、荒廃地や砂漠の拡大が影響していると言われています。
植林に期待される効果
乾燥がはげしく、水土流失により地力の低下した地域では、自然に植生が回復することは非常に困難です。また、裸地化した状態のまま放置すると水土流失はさらに進みます。
植林をすることで、樹木の働き(土壌・水分を保持する、風雨の衝撃を和らげる、日陰を作る、葉を落として土を肥やす)によって土壌環境が改善され、植生の回復、水土流失の防止、さらには黄砂の飛散を抑えることが期待されます。
また、植林地を森林公園として整備し、市民に緑と親しむ場所を提供することで、市民の植林への関心が高まることが期待されています。
2. 中国植林支援のあゆみ
年度 | 活動内容 | |
---|---|---|
陝西省韓城市象山 | 1990 |
・中国陜西省からの招請をうけ、黄土高原緑化支援検討のため現地へ理事を派遣。韓城市内の植林候補地、数ヶ所を視察。 ・理事会にて支援を決定、実施地を象山に決める。 ・中国側から実施計画書が届き、理事会での審議によって初年度の助成金額が決定。 ・事業開始準備として、山中に簡易公道の敷設、給水施設、貯水池、給水管の敷設工事が進められる。 |
1991 | ・中国陝西省韓城市象山緑化事業開始。第1回助成金を送る。 ・山頂付近に貯水池、配水管などの給水施設を設置。貯水池にはふもとの川から水を汲み上げる。 ・植樹節の式典へ会長、理事、ボランティアを派遣、韓城市民ら5千人とともにアブラマツなど11樹種4万2千本の苗木を植えた。 |
|
1992 | ・植林作業用の四輪駆動車を寄贈。 ・理事を派遣、植林地を視察。 |
|
1993 | ・山腹に育苗所を設置。 ・植林後の管理をするために「象山緑化管理站」を設置。管理事務所に管理人15人が常駐、灌水など植林後の育成管理を行う。 ・理事、ボランティアを派遣、植林地の生育調査、植林。 |
|
1994 | ・会長、ボランティア派遣、韓城市民らとともに植林。 | |
1995 | ・緑化可能面積(約68ha)の約90%に植林。活着率80%以上。 ・頂上付近に森林公園づくりの一環として東屋「朝陽亭」を建てる。 |
|
1996 | ・管理組織を拡充。植林後の管理を強化したため活着率が好調。 ・職員派遣、植林、生育調査。市民のべ1万8千百人が参加、7樹種2万4千2百本を植えた。 ・植林した樹種、のべ20種。生存木18万2千257本。活着率72%。ニセアカシア、コノテガシワ、マンシュウクロマツが全生存樹木数の88%を占め、他の樹種に比べ象山での植林に適している様子。 |
|
1997 | ・異常気象による少雨により、また山中の樹木が増えるにしたがい、水が不足。給水施設の拡充が必要になった。貯水池へ水を汲み上げるための揚水施設、散水器の設置工事を進める。 ・約2百日間、雨が降らず。乾燥により植樹したコノテガシワ1万2千本のうち半数が枯死。給水設備の工事を急ぐ。 |
|
1998 | ・山西省の専門家を呼び、野生のアカナツメ1万5千本に接ぎ木。 ・ダムから山頂の貯水池へ水を引く揚水施設が完成。固定式スプリンクラー1基、移動式2基を設置。 ・山頂付近に森林公園建設。 ・職員派遣、生育調査、給水関係施設の点検。植林した樹木のうちニセアカシア、コノテガシワ、マンシュウクロマツの3樹種で生存樹木の90%近くを占め、そのうち、ニセアカシアが全体の60%を占める。サンショウ、リンゴ、サクランボなどの果樹の生育も順調。 |
|
1999 | ・職員を派遣、生育調査、森林公園造成の進行状況調査。山腹に環状道路が通り、散策路やコンクリート製ベンチ、ひょうたん池と噴水付きのゾウの像、あずま屋、小公園が完成。休日には市民が訪れゴミがめだつようになってきた。ゴミ箱の設置やゴミ持ち帰り運動などの対策を考える。 ・活着率が良い樹種はニセアカシア90%、アカナツメ85%、マンシュウクロマツ、ハゼノキ、サンショウ、リンゴ各80%。 スプリンクラーの設置によりそれぞれ活着率が15%ほど上がった。常緑樹で地元種のコノテガシワも50%から65%になった。 ニセアカシアは8年前に植えた1メートルの苗木が平均10メートルに生長。コノテガシワは7年で30センチの苗木が280センチに、マンシュウクロマツは7年で30センチから276センチに、タイワンネズは8年で70センチから310センチに生長。アカナツメは5センチの野生幼木に接ぎ木を行い、1年で150センチに生長した。 |
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2000 | ・職員、ボランティアを派遣、生育調査。生存樹木は22万371本。活着率76%。特別にお願いした日本風のあずま屋が完成。韓城市市長と当基金理事で、植林完了の記念碑を除幕、記念植樹。 ・森林公園が完成。 ・象山の植林事業完了 ・銅川市での植林緑化モデル造成事業、現地からの要請書を検討、理事会で支援が承認。南寺山の植林緑化モデル造林事業開始。理事を派遣。土壌調査、試験植林、植林方法について農林局関係者と話し合い。 |
|
銅川市南寺山 | ||
2001 | ・南寺山へ、職員、ボランティアを派遣、植林。試験植林の結果、7ヶ月後の活着率はニセアカシア78%、ナツメ58%、サンショウ70%、タイワンネズ86%、ヒノキ81%。少雨により生育は良好とはいえない。 ・植樹節に職員、ボランティア派遣。住民ら3百10人が約4万1千本の苗木を植えた。 ・8樹種5万1千80本を植林、平均活着率84%。コノテガシワ、ニセアカシアの生育が良好。象山では良く植えられたマンシュウクロマツは南寺山には適さない様子。 |
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2002 | ・職員派遣、生育調査。植林した樹木は、のべ11樹種8万5千338本、活着率は70~90%。活着率は最高が砂漠用樹種ヒッポファエ90%、タイワンネズとコノテガシワ86%、ポピュルス82%、イブキ81%、ヒマラヤスギとトウネズミモチ80%、ヒノキ79%、ニセアカシア78%、サンショウとサクラ70%。 ・給水対策として山の一角にコンクリート製の貯水槽(容量200立方メートル)が完成。 ・職員、ボランティアを派遣、植林に参加。市民ら4千2百人と協力して、7樹種1万9千6百本を植えた。 |
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2003 | ・貯水槽から各植林地への給水パイプの配管工事をはじめる。これまで利用していた麓の川の水は、近隣の市街地、工場などの排水が流れ込んで汚染されているので、貯水槽へは近くの深井戸から地下水を汲み上げる。 ・植樹節に職員を派遣、市民ら約1,200人が参加し、イブキ、タイワンネズ、カシワなどを植樹。麓の市街地から見栄えがするよう、崖の縁には常緑樹のイブキ、タイワンネズ、カシワを植え、内側にはサンショウを植える。事業開始から植えた樹木は11樹種7万7千972本。活着率もほとんど80%以でほぼ良好。起伏が激しいため、植林できる面積が少ない。植林した面積は適地の半分を超えた。 ・給水施設の配管工事は、動力用電線が盗まれるなどして停滞、配管敷設は目標の8キロのうち3キロまで敷設。 |
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2004 | ・職員、ボランティアを派遣、生育調査。貯水槽から水を受けるための給水器が完成。 ・2個目の貯水槽(容量300立方メートル)が完成。深井戸から水を汲み上げるための電力設備工事も完了。山中に放水管を設置し、灌水に活用。 ・管理所を建設。植林後の灌水、除草、防火、病虫害防止などに必要な資材を置いたり、管理作業に役立てる。 |
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2005 | ・職員派遣、生育調査。植林した樹木はのべ12樹種9万3千580本。カキなど果樹の栽培を農家に依頼し、試験植樹を始める。 植林面積が、植林適地面積の65%に達した。今後は麓の国道沿いの土地や、山中の畑などを農家の了解を得ながら植林地に転換するなど、植林適地の拡大を進める。 |
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2006 | ・イブキ、タイワンネズ等5樹種1万3千本を植林。 | |
2007 | ・大石正光会長が現地視察 ・イブキ、コノテガシク等6樹種1万8千100本を植林。 2001年からの累計は13万680本、植林面積(退耕還林10ヘクタールを除く)は32.75ヘクタールと、植林計画の81%を完了 |
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2008 | ・新たにコマツナギ、エンジュを植林するなど8樹種7千200本を植林 ・2001年からの累計は13万7千880本、植林面積(退耕還林10ヘクタールを除く)は36.9ヘクタールと、植林計画の92%を完了 |
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2009 | ・イブキ、コマツナギなど7樹種4千500本を植林 ・2001年からの累計は14万2千380本、植林面積(退耕還林10ヘクタールを除く)は38.75ヘクタールと、植林計画の97%を完了 |
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2010 | ・新たにコマツナギ、エンジュを植林するなど8樹種7千200本を植林 ・2001年からの累計は13万7千880本、植林面積(退耕還林10ヘクタールを除く)は36.9ヘクタールと、植林計画の92%を完了 |
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楡林市東陽山 | 2011 | ・次期植林候補地として陝西省楡林市横山県東陽山及び青海省互助土族自治県西湾村荒山を現地視察 ・理事会で、次期植林地として陝西省楡林市横山県東陽山に決定 |
2012 | ・当基金と中国陝西省楡林市横山県政府との間で外務・農林水産・環境の各省関係者の立会いの下で造林に関する覚書を署名・交換 ・設立30周年記念フォーラムで、楡林市旅遊外事局副局長による「楡林市における『防砂治砂』の実施方策」と題して特別講演 ・設立30周年記念フォーラムの際、中国側の植林地に関する窓口となった中国陝西省人民政府対外友好協会に対し感謝状と記念品を贈呈 |
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2013 | ・楡林市横山県東陽山における植林が2020年までの8年計画で始まる。 これを記念して、植林地である東陽山においで盛大に記念式典・植樹が行われる。 | |
2014 | 4月に1300本の樟子松を植林。8月に240本の樟子松を補植する。植林面積は3.2ha | |
2015 | 4月に1350本の樟子松を植林。8月に350本の樟子松を補植する。植林面積は3.2ha | |
2016 | 大石理事長ほか2名が現地視察し、楡林市と協議を行う。 また、韓城市象山緑化事業をフォローアップ調査するとともに、韓城市と協議を行う。 2016年と2017年の2年分の植林を一度に実施することとし、8月に新たな植林地用2592本、補植用590本の合計3182本の樟子松を植林。植林面積は6.4ha |
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2017 | 4月196本の補植を実施。 | |
2018 | 5月にこれまでの植林地から約3km離れた新たな9haの植林地に、クルミ4,455本を植林。 これにより、2013年の覚書に基づく25haの植林が完成。 |
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2019〜2020 | クルミ750本の補植を実施するとともに、25haのメンテナンス管理を行う。 |