第10回研究・活動報告会

第10回研究・活動報告会

災害と緑
- 第10回研究・活動報告会を開催 -

緑の地球防衛基金は、平成28年11月19日(土)午後2時から、東京・中央区新川の馬事畜産会館2階会議室において「緑の地球を守るために」の第10回研究・活動報告会(テーマ:災害と緑、後援:株式会社セディナ/地球にやさしいカード)を開催しました。

まず、大石正光当基金理事長、湯阪雅之株式会社セディナ・プロパーカード営業部長の挨拶がありました。

続く第1部の基調講演では、藤原一繪国際植生学会元副会長、横浜国立大学名誉教授、横浜市立大学大学院特任教授から「災害と緑─災害時、あなたは生き延びられますか?」と題して講演が行われました。

講演ではまず、近年の自然災害には人災の側面も強いことが触れられ、世界各地で起きた地震、豪雨、洪水の具体的事例をもとにこの点のお話がされました。たとえば東日本大震災では、津波の軽減が期待されていた人工的な松林(白砂青松とよばれ、日本人に好まれる管理された公園景観地)では、ほとんどの松がなぎ倒され壊滅状態であったこと、それに対して天然のクロマツ林は生き残り、津波被害を軽減させていたことが画像とともに紹介されました。

また以下の調査結果から、津波の軽減のためには、何列かの古砂丘地形の復活や、クロマツと広葉樹の混植林が有効であることが示されました。(1)環境保全林として植栽されたマウンド(丘あるいは堤状の土塁)上のクロマツと常緑広葉樹の混生密植植生は生き延びていた。しかし、埋め立てされ使われてきた沖積地はマツ林や環境保全林も、すべて流されていた、(2)古い砂丘地上のクロマツ林や天然クロマツ林は津波に耐えられた、(3)防潮林は防砂や防風林として影響を少なくするもので、完全にとめるものではない。白砂青松地もわずかに残っているところも古砂丘上にあった。一方、混植された環境保全林としての森林は火力発電所や下水処理場に生き延びていた。

こうしたことから、震災復興にあたっての防潮林堤として、被災地で大量に発生した瓦礫を有効利用してマウンドを築き、その上に潜在自然植生による植林(高木・亜高木・低木・草本植物)を提案、実施されている様子が紹介されました。

また、生物界や自然界の掟を無視して自然改変をすれば、必ず自然のしっぺ返しを受けることになり、命を守るためにも人類(私たち自身)は環境と向き合い、環境を理解してリスクと共存すること、自然資源(緑、土、水など)を保全し、上手に管理しなければ持続可能性は失われ、結果として命の基盤は失われるとお話しされました。そのために私たちができることとして、管理がいらない、ほんものの、災害に強い緑、自然林の保全・再生・創生に取り組み、共生していくこと、そして災害時に生きのびるためにも、自分の身の周りの緑の環境をチェックして備えておくことを協調され、講演の結びとされました。

続いて第2部の活動報告では、渡邊敏雄認定NPO法人ヒマラヤ保全協会会長から「植林事業とネパール地震の対応」と題して報告がありました。ネパールでは2015年に大地震が発生し、同会も緊急支援にあたりましたが、活動地では当初予想していた倒壊家屋の復旧よりも、ライフラインである給水パイプが壊れたことによる水不足の方が深刻であったことが説明されました。また同会が取り組んでいる植林は、地域住民による利用を前提とした里山作りをコンセプトとしており、実際にプロジェクト地で回復した森林の様子や、収入向上のために取り組んでいる織物事業などが画像で紹介されました。

次に、馬塚丈司NPO法人サンクチュアリ・エヌピーオー理事長からは「遠州灘におけるアカウミガメ保護活動の30年のあゆみ─海浜植物と防風林が国土を守る」と題して報告がありました。その中で海岸環境、特に砂浜の保護がウミガメ、さらには国土保全の観点からも極めて重要であることが述べられました。そして砂浜の保護のためには、防風林とともに地下茎が発達している海浜植物の果たしている役割に注目していることが述べられました。同会では産廃として廃棄されているコーヒー豆用の麻袋を輸入企業からもらい受け、それに砂を詰めた上で海浜植物の一つコウボウムギの種を播種し、砂浜に設置しているとのことでした。この方法により、種子の飛散と乾燥による発芽不良を抑えられているとのことでした。

また同会では、砂浜を荒らすオフロード車の乗り入れなどを規制するため、海岸法の改正を働きかけ、これに成功しましたが、実際に適用しているところがほとんどない現状が説明されました。

報告会は3時間の長時間でしたが、参加者は熱心に聞き入り、盛会に終わりました